可能と現実ーアンリ・ベルクソン

進化の各瞬間の根本的な新しさを見損なう学説の底には、数多くの誤解と多くの誤謬が存在する。しかしとりわけ、可能なものは現実のものより少なく、したがって事物の可能性はその現実性に先立つという考えがそこにある。 この考えによれば、事物は前もって表…

社会理論入門―ニクラス・ルーマン講義録〈2〉(2)

つまり、現実はただ一つであるにもかかわらず、言語という装置がこのように二重化されているのはなぜか、という点です。わたしたちが入室してすし詰めの状態になっていようとなかろうと、この講義室はこの講義室です。いかなる否定形の講義室も存在していま…

社会理論入門―ニクラス・ルーマン講義録〈2〉

二分コードとは次のようなものです。あることは真か偽かのいずれかである、あるものはわたしの所有物であるか所有物でないかのいずれかである。彼または彼女はわたしのことをほんの少しだけ愛している、あるいは愛しているときもあれば愛していないときもあ…

プラトン「メノン」

「蜜蜂にはいろいろとたくさんの種類があって、それらは互いに異なったものであるというのは、それらが蜜蜂であるという点においてそうなのだと、君は主張するのかね?それとも、その点では、それらは互いに少しも異なるものではなくて、何か他の点、たとえ…

命題集註解(オルディナティオ)第一巻第三区分 (ヨハネスドゥンス・スコトゥス)

この種[必然的命題]の知に関して言えば、知性は感覚を、[知識の]原因としてではなく、ただ[知識を受け取る]機会としてもつのみである。なぜなら、知性は感覚から受け取られたものなしには単純なものどものの知解[名辞]をもつことができないのである…

連続性の哲学 第4章因果作用と力(パース)

なぜ偶然が永久的な変化を生み出すのであろうか。こう問われたとき、われわれの口から自然に出てくる答えは、時間における各瞬間どうしが独立であるためである、というものであろう。変化が生み出されたまさにその時点で、当の変化を生み出さないような特別…

「スピノザと表現の問題」第4章

聖トマスによれば、神に帰せられる諸性質は神的な実体と被造物との間の形式の共通性を何ら含意していないが、ただアナロジー、つまり、釣合いあるいは比率の「一致」のみを含意しているのである。神はあるときは被造物において外在的にとどまる完全性を形式…

プラグマティシズムの問題点(パース)

プラグマティシズムが記号の知的な意味内容の由来をたどって突き止めようとするのは、熟慮の上での行動という概念だからであり、熟慮の上での行動というのは、自己制御行動にほかならないからである。さて、制御〔過程〕はそれ自体制御されうるし、批判はそ…

プラグマティズムとは何か(パース)

信念はつかの間の状態ではない。信念とは心の習慣であり、したがって本質的に一定期間継続する。それは、(少なくとも)たいていは意識されない習慣である。他の習慣と同様に、信念は、信念を揺るがす予期せぬ出来事に出会うまでは完全に自己充足的である。…

アンリ・ベルクソン「創造的進化」序

人間的知性を不活性な諸対象、もっと特化して言うなら諸個体のなかに置くかぎり、人間的知性は我が家にいるように感じること。個体のうちに、われわれの行動はその視点を、われわれの器用さはその仕事道具を見出すのだ。また、われわれの論理学は諸個体の論…

「システム理論入門 ニクラス・ルーマン講義録〈1〉」

構造形成の特殊性は、まず反復しなくてはならない、つまり何らかの状況を他の何かの反復として認識しなくてはならないということにあるようです。すべてがいつも完全に新しければ、何かを学ぶことなど決してできないでしょう。そして、もちろんすべてのこと…

チャールズ・サンダース・パース「4つの能力の否定から導かれる諸所の帰結」

いかなる蓋然的立論においても、その妥当性に不可欠な知識というものがある。そうした知識が欠如している場合、ある問いに関わっていることになる。そしてその問いの有様は当の立論自身によって限定を受ける。その問いとは、他のすべての問いと同様、特定の…

ジル・ドゥルーズ「襞―ライプニッツとバロック」第4章

第4章 十分な理由 アリストテレスが事前と事後とよんだもの、つまり先行性は、ここに時間の秩序がないけれども、複雑な観念であることが予感される。定義するもの、あるいは理由は定義されるものに先行しなければならない。それらが定義されるものの可能性…

ジョセフ・ラズ「権利の性質について」(3)

続き bqgism.hatenablog.com 七 権利と利益 権利は権利保持者の利益に根拠づけられているが、個人は自らにとって不利益となるような権利を有することもありうる。たとえば、自己の所有する財産が、その価値以上に不利益をもたらすこともある。ある人が、自由…

ジョセフ・ラズ「権利の性質について(2)」

続き bqgism.hatenablog.com 六 権利をもつ能力 たとえ(同一の)道徳共同体の構成員ではないものに対して義務を有しうるとしても、この義務の履行によって利益を受ける者の利益に、その義務が根拠を有していないとすれば、相互依存テーゼはなお通用している…

アリストテレスの認識論について

哲学はいつも本質的な部分は理解されず、細かいディテールばかりが注目されているように感じる。大事なのは部分的な事実ではなく、その事実を全体の中で位置づける枠組みであるのに。 アリストテレスの認識論について、いわゆる経験論に近い立場で、プラトン…

「純粋理性批判」第一版の序文

修道院長のテラッソンの次のような言葉がある。「ある本の大きさをページ数によってではなく、その本を理解する時間によって測るなら、多くの本について次のように言えるだろう。『この本がこれほど短くなかったなら、はるかに短かったであろうに』」だが反…

ライプニッツ「形而上学叙説」

神のとる道の単純性についていえば、単純なのはもっぱらその手段においてであって、目的ないし結果の点では逆に多様で多彩あるいは豊穣なのである。この単純性と多様性は、一方で建物を造る予算、他方で建物に求められる大きさと美しさの場合と同様に、バラ…

マイケル・オークショット「大学にふさわしい『政治学』教育について」

簡単にいうならば、大学教育が学校教育や「職業」教育と異なるのは、それが「作品」の教育ではなく「言葉」の教育だからであり、それが説明言語(あるいは思考様式)の使用と習得に関わり、処方箋を示す言葉に関係するのではないからである。学校の生徒も熱…

ジョセフ・ラズ「権利の性質について」

一 権利についてのある説明のしかたの概観 権利は、他者における義務の根拠である。権利に根拠を持つ義務は、条件的義務の場合もある。業務の遂行に関する雇用の指令に従うべき、被用者の義務を例にして考えてみよう。この義務は、被用者に指令を与えるとい…

ドゥルーズ「差異と反復」で扱われるアリストテレス論について(2)

前回の記事の続きbqgism.hatenablog.com たとえばa「白い」と「黒い」が「人間」から切り離せるように、偶有性が基体から切り離せる場合と、たとえばb「おす」と「めす」が「動物」から切り離せないように、偶有性が基体から切り離せない場合がありうる。…

ドゥルーズ「差異と反復」で扱われるアリストテレス論について(1)

ドゥルーズが「差異と反復」でアリストテレスをどのように扱っているかについての解説。 アリストテレスは、最大であると同時にもっとも完全な差異が存在する、と述べている。差異一般は、a異別性あるいは異他性から区別される。なぜなら二つの項が、それら…